投資詐欺・特殊詐欺の状況
投資詐欺や特殊詐欺と呼ばれる被害は,現在も多く生じています。手口は巧妙化し,それに伴い,被害回復が困難化しています。警察庁の公表情報によれば,平成29年の特殊詐欺の認知件数は1万8212件,被害総額は約394億円,1件あたりの被害額平均は229万円とのことです。また,金融庁の公表情報によれば,金融庁に寄せられた投資詐欺に関する相談件数は,平成26年・27年の2年間で5431件にのぼり,その約半分が70代以上の高齢者で占められているとのことです。
(出典:警察庁ホームページ)
最近の傾向(私見)
当事務所では,これまで多くの投資詐欺の相談を受けてきており,現在も多数の投資詐欺の被害回復事件を受任しています。その大部分は,「一見して明らかに詐欺」というものではなく「一見すると通常の投資に見える」事案であり,警察への被害相談等を行っていない(行っても事件化しない・事件化してくれない)事案です。また,上記の金融庁の公表情報では被害者には高齢者が多いとされていますが,必ずしもそうではなく,若年層から高齢層まで満遍なく被害者がいるという印象です。
近似の投資詐欺の大きな特徴は,『巧妙化』・『国際化』・『多様化』にあると考えます。少し前までの,「一見して明らかに詐欺」とわかるような拙い手法ではなく,契約書や重要事項説明書などがきちんと作られており,「一見すると通常の投資に見える」ような巧妙な手法が増えています(もっとも,投資詐欺事案の契約書などには,独特の「雰囲気」があります。)。現金を詐取する手法も,足が付きやすい銀行預金口座は用いずに,原始的な「手渡し」の事案も少なくありませんし,海外投資の場合は外為送金が用いられることが多く,この意味でも『巧妙化』しているといえます。
また,詐欺であることが発覚しづらい海外のプライベートバンク,不動産,未公開株などへの投資を謳う『国際化』した手法が非常に多くなっています。これら以外にも,最近では,仮想通貨に関するもの,私的な投資一任契約という形をとるもの,CO2排出権証拠金取引などグレーゾーンを狙ったものなど,手法は『多様化』しています。
投資詐欺の被害回復への取り組み
当事務所では多くの投資詐欺の被害回復事件を受任しており,多くの経験・ノウハウの蓄積があり,多くの被害回復の実績もあります。この場にノウハウを詳細に記載することはできませんが(相手方も目にするため),大まかにいえば,
- 振り込め詐欺救済法に基づく口座凍結手続
- 示談交渉
- 預金等の仮差押え
- 訴訟
- 刑事告訴・告発
などの手続を選択し,進めています。損害賠償請求の対象は,首謀者・主導者はもちろんのこと,それ以外の,詐欺会社の役員ら,勧誘に関与した代理店の代表者,勧誘行為を行った詐欺会社の担当者個人,宣伝広告・広報を行った業者など,周辺の関与者らに対する責任追及・損害賠償請求も行っています。
ひとまず,「迅速さ」が重要です。被害にあってから時間が経過すればするほど,被害回復の困難さは増します。投資詐欺被害にあったと思われる場合には,早急にご相談にいらして下さい。
最近の投資詐欺の傾向など(2020年12月更新)
(1) 最近の傾向
マッチングアプリで知り合い,SNS上のメッセンジャーを利用して連絡を取り合っていた相手より,「絶対儲かるから」などと勧誘され,仮想通貨(暗号資産)を海外の取引所に送付したら,その後,連絡がつかなくなり,取引所からの出金もできない,という事案のご相談が,かなり多いです。
相手方(敵側)が見る可能性があるため,詳細は書けませんが,最新のテクノロジーを悪用し,匿名で行われるこの種類の詐欺については,多くの乗り越えるべきハードルがあり,過去の投資詐欺の類型に比べ,解決の困難さは増しています。
また,海外FX業者の関連する投資詐欺・投資被害の事案のご相談も多いです。海外FX業者に資金を預けて運用を任せれば月数%~数十%の利益が得られる,などと勧誘され,資金を預けたところ,連絡がつかなくなる,ある日突然残高がなくなる,いろいろ理由をつけて出金を拒否される,という事案です。
海外FX業者は,無登録で金融商品取引業を行うとして金融庁等より警告を受けている業者も多く,そもそもFX業者としての実体が不明の業者が少なくありません。この種類の投資詐欺・投資被害についても,多くの乗り越えるべきハードルがあります。
以上のような類型以外にも,上場間近などと勧誘され実体不明の会社の未公開株を買わされた事案,合同会社の社員権を買わされた事案,実体不明の海外の事業への出資をさせられた事案など,以前より見られる類型から,最近になって多く見られるようになった類型まで,まさに,千差万別です。
過去の経験を活かしつつ,最新の問題に,日々,知恵を絞り,悩みながら挑戦しています。
(2) 投資詐欺・投資被害の回復へ向けて
「絶対に回収できますか」,「回収できる可能性は何%ですか」と質問をいただくことがあります。お問合せいただいた段階や,事案の概要をお聞きした段階で,回収できるか否かは,分かりません。相手が既に特定されていて,相手の十分な資産も見つけられている,という「稀有」な事案を除けば,投資詐欺・投資被害の事例の多くは,「走り出してみなければ分からない」,「走りながら考えなければならない」ということが多いです。現に,私が取り組んだ事案で,被害金が満額回収できた事案や,満額ではないもののある程度は回収できた事案は,あります。億単位の回収を実現した事案も,あります。しかし,逆に,裁判に勝訴し,強制執行まで行ったものの,それでも回収できていない事案も,あります。
被害を回復できるか否か確約のない中,時間と費用と労力をかけてしか,その被害の回復を目指すことができないのが実情です。依頼にあたっては,このことは,しっかりと,ご理解いただく必要があります。
この現実を前にしながらも,それでも,日々,被害回復へ向けて尽力しています。
最近の投資詐欺の傾向・特徴(2021年10月更新)
(1) SNS・仮想通貨の匿名性を悪用した詐欺の猛威
2020年後半から,現在に至るまで,マッチングアプリ・SNS等で知り合った人物から投資を持ちかけられ,言われたとおりに送金し,投資を行ったところ,出金できない,という類型の詐欺のお問合せを,非常に多く受けています(既に100件は優に超えています。)。
最近になって「国際ロマンス詐欺」とか「ロマンス詐欺」という名称で呼ばれるようになったこの詐欺の共通項は,概ね,以下のとおりです。
① マッチングアプリや,facebook等のSNSを介して,相手方より接触を受ける
② 相手方は外国人の異性のことが多い
③ 最初の接触後は,LINE,WeChat,Telegramなどのメッセンジャーアプリを使ってのやりとりとなる
④ メッセージのやりとりを行う中で,恋愛関係を持ちかけ,結婚を求めてくることが多い
⑤ しばらくメッセージのやりとりを行った後に,投資(仮想通貨,FX,カジノ,レース等)を持ちかけられる
⑥ 親族が証券会社のアナリストだから必ず儲かる,などと言われる
⑦ 投資資金は,国内の銀行口座(個人名義の場合もあれば,会社名義の口座の場合もある)への振込みか,仮想通貨の送付で行われる
⑧ 最初のころ,少額(数万円程度)であれば,出金できる
⑨ 指示どおりにインターネット上で投資を行うと,サイト上は,利益が出ているように表示される
⑩ いざ利益を出金しようとすると,税金の前払いが必要である,税務当局の調査を受けている,など,いろいろ理由をあげられ,更に送金しないと出金できないと言われる(時には,期限内に納めないと刑事事件になる,などと脅される)
⑪ 指示されたとおりに追加で送金しても出金はできず,最終的には連絡がつかなくなる(LINE等のアカウントも削除される)
相手方(敵側)が見る可能性があるため,これ以上のことは書けませんが,まさに,スマートフォン,SNS,仮想通貨(暗号資産)などの最新のテクノロジーを悪用し,SNSの匿名性の壁,仮想通貨の匿名性の壁,国境の壁を巧みに利用した詐欺の類型です。
また,SNSの匿名性の壁については,抜本的な対策・手立てが必要であると感じます。メッセンジャーアプリは,今や,日々,誰もが使っているもので,もはや「公器」となっていると言っても過言ではない状況にあります。それが,匿名性が悪用され,「詐欺の温床」になっている状況にありながら,個人情報保護等を理由にアカウント情報の開示を拒否する一部業者は,結果的には,詐欺を行った者を隠避する手助けをしているようなもので,被害回復の妨げになっています。
(2) 預託商法・販売委託商法の被害
高級ブランド品や,高級腕時計などを業者から購入し,商品の現物は当該業者に預けたまま,当該業者が販売を代行し,利益を上乗せして,一定期間経過後に代金が支払われる,というビジネスを勧誘され,このとおりに行ったところ,代金が支払われない,という類型の被害が増えています。新型コロナの影響もあってか,「副業」という形で被害に遭う事例もあるようです。
多くの場合,購入の際にはクレジットカードが使われており,クレジットカードの引落日までには代金が入金される,という約束だったのに支払われず,自分もクレジットカード会社に支払いができなくなった,という形で問題が顕在化します。
このようなスキームは,そもそも商品自体が存在せず,故に業者は商品の販売も行っておらず,単に,クレジットカードの決済から引落しまでのタイムラグを利用し,業者は資金を回しているだけであると推測します。
(3) SNS上の広告について雑感
仕事柄,最近の傾向を把握するために,ネット広告を見てまわり,時には実際に業者のサイトまで行き,申し込みを行ってみることもありますが,今や,SNSの広告は「何でもあり」の様相です。
上記⑵の副業という名の詐欺もそうですし,「短時間で簡単に稼げる!」などと広告では謳うものの実は海外FX取引の広告だった,とか,「無料のサプリメント!」などと広告では謳うものの実は定期購入だった,とか,「作りすぎたので商品を無料でもらって下さい!」などと広告では謳うもののサイトまで行くと強烈に定期購入を促される(無料でもらえる筈の商品は今も届かない),など,まさに「何でもあり」の状況です。若い層をターゲットとしている点が,悪質だな,と感じます。
(4) 被害回復へ向けて進む道程
投資被害に遭った場合,まず,相手方(加害者)を特定する必要があります。契約書等があれば比較的容易ですが,SNSを介している場合などは,この特定だけで,非常に苦労することがあります。特定できなければ,被害回復へ向けた手続すら,行えません。
相手方と交渉し,被害回復に至れば良いですが,被害回復に至らなければ,裁判を行うことになります。いうまでもなく,裁判には,時間と労力がかかります(故に,相応の費用も発生します。)。裁判では,詐欺であること,虚偽説明が行われたこと,断定的判断の提供が行われたこと,十分な説明が行われなかったこと等の不法行為を基礎付ける事実の立証責任は,基本的には,請求をする側(被害者側)が負担します。証拠がなければ,立証できなければ,勝つことはできません。怪しい,疑わしい,というだけでは,勝つことはできません。
また,事実の立証とは別に,最新の投資詐欺・投資被害の類型の場合,法的評価の争いになる場合も多いです。「ICOのホワイトペーパーに虚偽記載があった場合に不法行為になるのか」,「事業実体のない仮想通貨の販売を行ったブローカーが法的責任を負うのか」,「海外FX取引を仲介した業者が法的責任を負うのか」などが争点となり,これについて,裁判官を説得しなければなりません。
そして,裁判で勝ったとしても,裁判内で被害回復に至らなければ,裁判の後に,別途,強制執行を行わなければなりません。近時,法改正により,民事執行制度は拡充されましたが,まだまだ,改善されるべきです。「裁判までやって,勝訴したのに,なぜ,そこまでしなければならないのか」,「債務者への配慮が過ぎるのではないか」と感じる場面は少なくありません。
以上,厳しいことを書きましたが,何を言いたいかというと,「詐欺であり,当方が完全なる被害者であったとしても,一度,手元を離れてしまったお金を取り戻すことは簡単なことではない」ということです。悔しいけれど,これが実情です。被害回復に進む場合には,相応の覚悟が必要である,という点は,十分にご理解下さい。このような中で,日々,被害回復のために尽力しています。